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二本の刀が正しく音速を、神速を超えて振るわれる。一刀振るわれる毎に鋭さと速度を更に更に更 に増し、まるで限界と呼ばれるものが最初から存在せぬと言わんばかりだ。 僅かでも集中を切らせば即座に首を刎ねられる。初動を見逃そうものならば理解する間もなく唐竹 に割られる。下手に柄で受け止めようものならばデバイスごと両断される。騎士甲冑による防御など この斬撃の前には役に立つまい。故に捌き、躱す。 一秒の内に槌と刀、剣と刀が何十回と交錯し、空中に火花を咲かせるその様はまるでダンス。時に 優雅で、時には激しく、時には停滞する。 ヴィータは焦っていた。リミッターが掛かっているとは言え、二人掛りであるにも拘らず目の前の サムライは自分達と拮抗しているのだ。否、明らかに押されている。 しかしそんなことよりも気に掛かるのは全く連絡の付かないはやてたちだ。次第に焦りが増大して ゆき、槌を振るう速度にも陰りが出始めたその時、ザフィーラからの思念通話が入った。 「『シグナム、ヴィータ。先程から主たちと連絡が付かない。一体何があった!?』」 「『すまねぇザフィーラ、はやてたちの様子見てきてくれ! こっちはイカレサムライの所為で手が 離せねえんだ!』」 「『心得た。主たちのことは任せておけ』」 「『助かる!』」 実に短い会話であった。だが、ヴィータにとってはそれで十分だった。同じ時を過ごして来た仲間 であり、家族であるザフィーラは信用できるし信頼できる。もう焦る必要は無い。グラーフアイゼン を握り直し、ムライへと切り込んでいった。 ザフィーラ一人に任せたその判断が、大きな間違いであったことを知らぬまま。 第七話 望むところだ、ケッチャコ 繰り返されるのは先程の焼き増しのような一進一退の攻防。 響くのは刃が風を切る音、鋼が撃ち合わされる金属音。そして己の呼吸音のみだ。 百戦錬磨である彼女らを以ってしても、目の前のサムライを無力化するのは至難の業であった。 しかし彼女らとて伊達に騎士を名乗ってはいない。サムライが二刀を振りぬいた極々僅かな間隙に ヴィータが全身全霊の威力を以ってグラーフアイゼンを打ち込む。 一際大きな轟音が響く。ヴィータの振りぬいたグラーフアイゼンがティトゥスを吹き飛ばしたのだ。 防御こそされたものの、大きく間合いが開いた。 ヴィータとシグナムは肩を上下させながら呼吸を整えようとしている。 しかしサムライを見てみれば平然とした表情。汗こそ僅かに出ているが呼吸は平静そのもの。 そのサムライは唐突に構えを解き言葉を掛けてきた。彼女達に向けていた視線を一瞬空へとやり、 そして再び彼女らに視線を向ける。 「素晴らしい。 ただの童女と女とは思ってはおらなんだが、よもや拙者の剣がここまで捌かれようとは……。実に 素晴らしい。これほどの充足感を与えてくれる存在が、かの執事以外にも居ようとは……まこと世界 とは広きものよ。 だが惜しむらくは、この愉しき死合もこれまでということか」 ティトゥスは再び高き空を行く流れ星を見る。その瞳は確かにそれを認識していた。 大気との摩擦により炎の如き赤を身に纏った、刃金で象られし人型――鬼械神アイオーン。 「そう言えば、お主らの名を訊いていなかったな。訊かせてはくれぬか? 先程も其処な童女に名乗ったが、今一度名乗ろう。 拙者は逆十字が末席、ティトゥス」 ヴィータはティトゥスの突然と言えば余りに突然な行動――戦闘の真っ只中で有るにも拘らず敵を褒め た上に、空を見上げるなどと言う隙を晒し、あまつさえ名まで問うて来る――を疑問に感じた。 それもその筈、戦いの主導権はティトゥスが握っていた筈だ。その主導権を放棄し一方的に戦闘の 終了を告げることに、一体どれ程の価値がある? いくら疑問を感じようと、名乗られたのであればそれに応じるのが騎士としての礼儀。 「烈火の将、シグナム」 「鉄槌の騎士、ヴィータ」 戦っていた者が名乗りあうと言うそれは、余りにも時代錯誤な光景だった。 だが、それだけに尊いとも言えるだろう。 「で、なんでいきなり戦闘終了なんだ? 訳を言えよ」 「それに関しては私も訊きたい」 ヴィータが当然と言えば余りにも当然の疑問を投げかけ、シグナムもそれに同乗する。 「何、間もなくこの辺りは焼滅する。ただそれだけの事よ。 生憎、今の拙者には鬼械神(アレ)に対抗する術を持たんのでな」 そう言って空の一点を指差す。 思わず指差された方向を向いたヴィータたちの目にもしっかりと視えた。鱗を束ねたような鋼鉄の 翼を広げ、降臨する模造神の姿が。 ソレはここから見れば小さな点でしかないが、しかし距離を考えれば余りにも巨大な隻腕の人型だ。 「な、なんだありゃ……」 視認した瞬間に彼女達を襲ったは激しい悪寒。それは警告だ。あれに込められた力は尋常の世界に 収まるものではないことを知識ではなく、智慧でもなく、本能で理解したのだ。 それが人知を超えた存在であることを。それが人風情に抗える代物ではないことを。その右手には 膨大な――膨大と言う表現すら生温いほどの――魔力が込められていることを。 彼女達の、騎士としての部分が危険を告げる。 「さらばだ。拙者以外の誰にも斃されてくれるなよ」 ティトゥスはそう言うと、目にも止まらぬ速度で何も無い空間を十字に斬り裂く。 斬り裂かれた空間は音ならぬ悲鳴をあげ、さらに傷口を広げてゆく。 その広がった傷口にティトゥスは身体を滑り込ませた。 「転移魔法!?」 ティトゥスの身体が『傷口』に埋没するや否や、それは自然と、しかし、恐ろしいほどの速度で修復 されてゆく。 其処に残ったのは何も無い空間と、二人の騎士だけ。 そして機械の神が降臨した地で爆ぜた閃光が、彼女達を襲った。 ※~~・~~◎~~・~~※ ヴィータの言う別働隊、ルーテシアとゼストは鬱蒼とした森の中を移動していた。ガジェットを連れ る事もなく、魔力を隠しひたすらに歩く。 本来ならば彼らがホテルに近づく必要性は全く無い。しかし彼らがホテルへ向かっているのは紛れも 無い事実である。何故か? それはルーテシアがドクタースカリエッティから請けた依頼にある。その依頼の内容とは”――ホテ ル内のとある書物を盗ってきて貰いたい、無論陽動はこちらでやる――”と言うものだった。 ゼストは難色を示したが請けた当人であるルーテシアは承諾。ホテルにガリューを差し向けたのだが、 そのガリューからの連絡が突如として途絶えたのだ。今までこんなことは全く無かったため、流石のル ーテシアも焦りゼストを促して反応が消えた場所へと向った。 更にガリューの反応消失後、しばらく経ってから突如として顕れた巨大な閃光も彼女の不安を煽って いる。とどのつまりは、心配になって探しに来たということなのだ。 ここまで発見されることなくホテルにまで辿り着けると言うことは、陽動役であるアンチクロスが上 手くやっている証拠なのだろう。 そしてホテルまで後数百メートルのところに接近した時、有り得ぬ声が響いた。 「やぁ、ゼスト君にルーテシア君じゃないか」 果たして其処に居たのは、黒いパーティドレスを身に纏った――この世ならざる美貌と雰囲気を当た り前のように振り撒いている――美女、ナイアだった。 ナイアを見た瞬間にルーテシアはその端正な顔を恐怖に歪め、ゼストに至っては恐怖と憎悪そして殺 意が綯い交ぜになった鋭い視線で睨み付けている。 「そんなに睨まないで欲しいんだけどなぁ。流石の僕も、君に睨まれると生きた心地がしないよ。 ま、そんな君の気性も僕は割と気に入ってるんだけどね」 女のおどけたような、巫山戯たような口調。しかしその貌に浮かぶのは紛れも無い嘲笑。 「何の、用だ?」 苛立ちと怒り、そして言葉の裏側に隠された紛れも無い恐怖。それらが篭ったゼストの短い問に、女は くすくすと笑いながら哂いながら答える。 「ああ、僕の用事はね、君達の探し物を持ってきただけさ。ほら、そこに」 女が指し示す場所にあったのは、言うなれば寸分の狂いもなく精巧に造られた彫像だ。余りにも生々 しく造られているがために、今にも動き出さんばかりの躍動感をそれから感じてしまう……。 「真逆……」 ぽつりと言葉を漏らしたルーテシアは、彫像から目を離しナイアへと振り向く。その瞳に篭った感情 は怒りだろうか、それともこの絶対者に対する恐怖なのだろうか。 何故ならばその彫像こそが彼女が探していた存在、ガリューそのものだったからだ。 「おやおや、駄目じゃないか。ルーテシア君までそんな目をしちゃさ。 それともそんなに僕からの届け物が御気に召さないのかい? 嗚呼、もしそうなら僕の繊細な心は深 く傷ついてしまうよ。 …………まぁそんな冗談は置いておくとして、先ずは彼とホテルを元に戻さないとね。 それからそこの出歯亀君。出てらっしゃいな」 女はそう言うと唐突に、ぽん。と間の抜けた音の柏手を一つ。 それを合図にしたかのようにガリューとホテルの停滞は解け、そして何も無い空間から突如として引 き摺り出されてきたのは――盾の守護獣、ザフィーラだった。 ※~~・~~◎~~・~~※ ザフィーラには何が起こったのか、現在進行形で理解が出来ない。 怪しげな三人を発見し聞き耳を立てていた所、その三人の内一人がどうやらホテルに起こった異常に関 して何かを知っていると言うところは理解が出来た。問題はその後だ。 彼の主観を借りれば、唐突に目の前の景色が全く違うものになった。と言うところだろうか。実際には 景色が変わったのではない。闇を纏った女が、尋常ならざる手段を以って――女にとってはそれこそ造作 も無い、という言葉以前の手段ではあったが――ザフィーラを引きずり出したに過ぎない。ただそれだけ のことだ。 彼は己の身に何が起こったかは理解できずにいたが、これだけは理解が出来た。 ――目の前にいる女に、否。目の前にいる存在に関わるな。全力で逃げろ! ――と。 「男と女の秘め事を覗き見るなんて、本当に君はいい趣味をしているね。ザフィーラ君」 女の姿をした存在の聲を聞いた途端、ザフィーラの総毛が立った。それは間近に迫った死の恐怖、などと 言う生温いものではない。もっともっと恐ろしい何かなのだ。もっともっと悍ましい何かなのだ。 ああ、しかし彼はこの女から目が離せない。この恐ろしい女から逃げ出したい。本能が喧しいほどに警告 を発している。 だが身体が動いてくれない。射竦みを掛けられた訳でもないのに、身体が命令を全く聞き入れてくれない。 どれだけ力を込めようとその身体はただ小刻みに、まるで初夜を経験する未通女のように震えるのみ。 「おやおや、そんなに震えることは無いじゃないか」 その存在の言葉が、ザフィーラを構成する根幹そのものに語りかけてくる。余りにも甘美な艶を含んだ 聲が彼の存在そのものを冒してゆく。 「ぐ、おおお……っ!」 彼は苦悶の声を上げつつ抵抗する。震えるばかりで力の入らぬ四肢に渾身の力を込め奮い立たせる。 ヴォルケンリッターとしての、盾の守護獣としての誇りを込めて。 そして鋼の軛を発動させた。 それは一切の慈悲もなく女の姿をした存在を貫いた。確かに砕いた。頭を、首を、胸を、腹を、足を。 だがソレは平然としている。それどころか喜悦すら浮かべて語りかけてくるのだ。 「ああ、温いなぁ。君の求愛はこんなものなのかい?」 ソレの言葉と共に、鋼の軛は内側から“生えた”鋼の軛によって呆気なく崩壊した。まるで最初からそ んな物など無かったかのように。 その後、いくら鋼の軛を発動させようとしても発動しない。まるで最初からそんな物など無かったかの ように。 それでもまだ彼には残された手段がある。獣の如き敏捷性を誇る己の肉体を利用した格闘攻撃だ。 彼は果敢にもソレに飛び掛った。 その時彼が見たものは、途轍もなく巨大な何かの顎門。そしてその中に飛び込む自分の姿だった。 何処かで、夜鷹が啼いた。 ※~~・~~◎~~・~~※ 盾の守護獣が現れた時と同じような唐突さで消えてから音が聞こえてくる。咀嚼音だ。 聞こえてくる方向は一方ではない。空からも、地面からも、前後左右からも、斜めからも、それ以外の 本来有り得ぬ異常極まる方向からも聞こえてくる。 最初こそ『何か』を噛み砕く様な音であったのだが、やがて水分の混じった音へと変化していった。 その悍ましい、余りにも悍ましい音にルーテシアは耳を押さえ地面に蹲り、まるで赤子にまで退行した かの如く泣きながら、母の名を呼びながら助けを求める。 年齢にそぐわぬ大人びた外見と雰囲気を持つ普段の彼女からは、とてもではないが想像も出来ないほど の有様だった。 「ああ、可愛いルーテシア。そんなに怖がらなくてもいいじゃない。まるで僕が悪者みたいじゃないか」 女は哂う。くすくす、くすくすと。 「ああ、それからこれを渡しておくよ。頼まれ物なんだろう? ドクタースカリエッティからのさ」 何処からともなく女が取り出したのは一冊の本。 人間の皮膚で装丁された――何故か腐った海の臭いがする――本。 その余りの臭い、もしくは気配にゼストは顔を歪め、ルーテシアに至っては吐き気まで催したらしく青白 い顔で口を押さえている。 女はゼストにその本を渡した。 「ぐっ……」 「確かに渡したよ。じゃあね」 女はそう言うと踵を返し、おもむろにその豊かな胸の谷間から十数枚の紙片を取り出して、それを空へ と撒いた。 紙片は風に逆らい、とある方向へと流れてゆく。ティアナ達が居るクレーターの中心部へと。 「さて、勝利者へのご褒美もこれでできたかな?」 何処か満足そうな女の聲が響いた。 つづく。 前へ 目次へ 次へ
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―Lylycal Nanoha StrikerS × SIREN ~Welcome to Hanyuda vil~― part2 キャロ・ル・ルシエ 蛇ノ首谷/折臥ノ森 初日/0時03分34秒 サイレンが鳴り止んだ。 その後、周囲に拡がる静けさ。 時折木の葉がこすれる音が聞こえる。 とにかく……フリードを呼んでここから出よう。 わたしは相棒の竜の名前を呼んだ。 足がまだ痛い。 そしてその場に座り込んでじっと待った。 下は水溜りだったらしく、じとっと濡れる感触があった。 気持ち悪いので、濡れていない場所を探して再度腰掛けた。 ふと真上を見上げた。 木々の隙間からのぞかせる空には星一つ無く、ただ真っ暗な空間が拡がるのみ。 ――? 5分ほど待ったが、いっこうにフリードは姿を現さない。 「フリード!早く来て!」 わたしはもう一度呼んだ。 たが、やはりその後には何事も無かったかのように、静まり返っていた。 竜の羽ばたきの音はおろか、風の音すらしない。 ただでさえ、近くにはガジェットや戦闘機人がうろついているかもしれない状況。 こんな時なら、すぐさま飛んでくるはずなのに。 どうしちゃったんだろ。 ひょっとしたら、ガジェットらに取り囲まれているんじゃ……。 わたしはすぐさま竜魂召喚の詠唱を始めた。 足元に巨大な魔方陣が現れ出した……。 「蒼穹を奔る白き閃光。我が翼となり、天を翔けよ。来よ、我が竜フリードリヒ。竜魂召還!」 だが……フリードリヒの姿は現れない。 ただ魔方陣が空しく回転しているだけ。 そして、何事も無かったかのように魔方陣は消滅した。 「え?なんで?」 今起こっているが理解できなかった。 普通なら、本来の姿のフリードが出てくるはずなのに! 詠唱が不完全だったのかと思い、すぐさま再度魔法の発動させる。 魔法陣が出現するものの……やはりフリードは現れない。 ど、どうなっているの?これ!? わたしはただ、うろたえるしかなかった。 普通ならまずありえないことだった。 まさか……フリードが倒されて死んだんじゃ……。 そんな思いがふと頭をよぎった。 いや、そんなのは嫌! わたしは目を閉じて、けんめいに首を振って、そんな予感を振り払おうとした。 その時だった。 視界に白い砂嵐――まるで放送が終わったテレビが映し出す画面のような――が現れて、画面が切り替わる。 目の前には勢いよく生い茂る木々の葉。 それを掻き分けながら前進しているようだった。 そして再び砂嵐の画像になって……私が今までいた風景が見える。 い、今のは何? 何が起こったのか、全く理解できなく、その場でただ立ち尽くす。 再び、砂嵐が映って……画面が切り替わる。 相変わらず木々を掻き分けて……立ち止まっていた。 息遣いがやたらと荒い。しかも、視線もどこか安定していなく、ふらふらとしている。 葉の隙間から、目の前に広がる光景が僅かに見える。 その先には誰かの後姿。 背は小さく、白い帽子をかぶった、桃色の髪の小柄な人物。白いマントを羽織っていた。 これって……わたし!? ふと視界の隅に、わたしを見ている「誰か」の手にしているものが映る。 ――鎌!? それははっきりとは分からなかったが、草刈なんかで使う鎌だった。 しかも、その刃先には何かが滴り落ちて……!! 同時に画面が再び切り替わり、元の視界に戻る。 すぐさまわたしは後ろを振り返った。 すると……それと同時にその先に見える茂みが動き出す。 がさがさと木の葉を掻き分ける音が響く。 わたしの頬を一筋の汗が静かに流れ落ちる。 やけにひんやりとして気持ち悪い。 茂みを掻き分けて……一人の人影が姿を現した。 麦藁帽子をかぶって、白いシャツにズボンをはいた男の人だった……。 でも……明らかに様子が変だった。 服は汚れがついて、ボロボロで。 姿勢もどこかおぼつかなく、フラフラしている。 何より……顔は青白く、目からは血の涙を流し、白目をむいて不気味に笑っていた! その手には、血が滴り落ちた鎌が! 明らかに人じゃない。 そいつはゆっくりとわたしに近寄ってきた。 逃げ出さなきゃ……そう思っても、体が動かない。 ただ、ぶるぶると震えながら……そいつが近寄ってくるのを見ていることしか出来ない。 そいつはわたしの目の前に立ち、じっと見ると、口を歪めてなお笑い出す。 「……お嬢ちゃんも悪い子だね……こんな夜中に出歩いちゃだめだぞお!ぎゃははは!」 うめくような低い声で笑い出すと、手にしていた鎌を振り上げた! ―to be continiued― 前へ 目次へ 次へ
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―Lylycal Nanoha StrikerS × SIREN ~Welcome to Hanyuda vil~― part3 フェイト・T・ハラウオン 合石岳/三隅林道上空 前日/23時58分24秒 何となくではあったが……嫌な予感はした。 なのはは心配しすぎだよなんて諌めてくれたものの、念のために私も第97世界に飛び立つことにした。 なんでもあの子達は4手に分散して、レリックの探索に当たっているという。 今のところ、レリックらしき反応は第97世界の中では見受けられない。 これまでの調査結果では、反応は1秒も立たないうちに消滅したという。 単なる誤感知か、それとも本当に存在しているのか……。 前者ならともかく、後者ならスカリエッティが黙っているわけが無い。 あの幼い召喚師や戦闘機人らを向かわせている可能性が高い。 ミッドチルダならともかく、なのはやはやての故郷である、あの世界で争いをさせることはできれば避けたい。 それに、彼らだけに連中の相手をさせるのはあまりに危険だった。 だが……正直な所、私の心の中にはそれ以上の不安が渦巻いていた。 彼らが出動した後で判明したのだが、反応が見つかったのは日本の某県三隅郡羽生蛇村付近。 その場所に関して、ロングアーチや無限書庫の司書長のユーノが下調べをした資料に目を通した際、気になることがあった。 過去より、羽生蛇村では土石流災害や地震が頻発しているということ。 さらに、変な怪奇系の噂話が後を絶たないところ……。 なんでも、過去に一人の村人が、村民全員を虐殺して、その亡霊が今でも漂っているのであるという。 それだけでは、なんともいえないのではあるが……地元の民俗に関する記述、心の引っ掛かりはさらに増した。 ――海送り、海還り――神に近づくための行事…… ――現世と常世――神の恩恵を受けて復活する…… 土着の宗教的行事で、別に何とでもないのかもしれない。 だが……私にとって……何かが引っ掛かる。 常世に行って……復活する……。 まるで……『あの時』のことではないか。 そう……私となのはが最初に出会った、あの事件の……。 さすがに、最初はその可能性はない……と思っていたが…… 次に示された、過去の羽生蛇村付近の時空間の状況に関するレポートを見た際、その引っ掛かりは不安へと変貌した。 過去……微かではあるものの、時空間の歪みが生じていたのだという。 しかも、その時期は過去の村を襲った災害の時期とほぼ一致しているという! 私はいてもたってもいられず……第97世界に飛び立った。 三隅郡の郡境あたりにたどり着いた時は、すでに日は暮れていた。 若年層の都会への流出が続いている為、過疎化が進んでいるのだろう……。 人家の明かりはまばらにしかない。 上空は全面が雲に覆われていて、星は一つも見えない。 低空飛行しながら、探索を続けていると……突如としてガジェットの大群の気配を感じた。 私はすぐさまその方向へと向かう。 ちょうど問題の羽生蛇村付近の上空に差し掛かった時、私は目にした。 空を飛び交う数多のガジェット。 その中心にいる、数人の戦闘機人。 そして……奴らに向けて炎を吐いている……主を乗せていないフリードリヒ! その脇腹には人型の虫のような生物がぶつかり、フリードリヒは姿勢をふらつかせていた! キャロは……どこへ!? 私はすかさず気配を探った。 だが……彼女の魔力反応はどこにも感じられない。 振り落とされたの……!? そう思っているうちにも、私の気配を連中は察したらしい。 ガジェットの大群……さらには戦闘機人が猛スピードでこちらに向かってくる! すぐさま、私はバルディッシュを構えて、雷撃魔法の詠唱を行おうとした……その時! ウォォォォォン! サイレンの音が何処からとも無く、周囲に響き渡った。 普通のサイレンとは違う……低く、どこか不気味さを感じさせる響き。 思わず、身の毛がよだちそうだった……。 異変は……その時起こった。 『System down!! Condtion red……』 バルディッシュがそんな声を発すると同時に……デバイスから光が消えた。 そして……空に浮いていた私の体は、重力に従って……下へと落ちていく! な、なぜ……? 私は戸惑いを隠せない。 地面が間近へと……迫ってくる! その時ふと目にしたのは……地面へと向かって落ちていく数体の戦闘機人の影……。 次の思考に移る前に……背中全体に痛みを伴う感触。 森の木の枝々に体が突っ込んだ。枝や葉が容赦なく私の体を引っ掻く。 多少落下する勢いは緩和されたものの……すぐさま私の体は地面へと叩き付けられる。 衝撃による痛みが全身に走るとともに……そこで私の意識は途絶えた……。 ※※※※ トーレ 上粗戸/眞魚岩 初日/0時43分41秒 うう……何が……起こったのか……? 全身に走る痛みをこらえながらも、私はゆっくりと体を起こす。 ぼんやりとした頭で、今起こったことを思い起こす。 管理局の局員をガリューが迎撃したが……直後のサイレン……。 あれが鳴りだしてから、おかしくなった。 発動させていたISが突然、機能停止……そのままなぜか落下して……。 妹達も……お嬢様も同じように下へと落ちて……。 私は……落ちる途中で気絶した……? それで、今はこんなザマというわけか……。 全身の痛みは相変わらず治まらない。時折ふらつき出したりもする。 どうやら、激しく全身を叩き付けられたな。 外傷はあまり無いものの……内部の機器は多少なりとも損傷があるかもしれない。 私はゆっくりと立ち上がると、周囲を見回した。 人の姿は今のところ……ない。 お嬢様や妹達の姿も……なかった。 すぐさまモニターでの通信を試みた……が。 ――!? 全く動作しない。 いや……画面自体が出現しない。 ただ静寂と……湿度の高い不快な空気がその場に漂うのみ。 どうなっているのだ……故障か……それとも何か障害でも起こっているのか? 私は訳がわからないと思いを抱きながらも、何度もそれを試みるのは無駄だと思い、とにかく周囲の状況の把握を行う。 原始的な工事用らしき機械に……鉄製の家屋……。 とにかく、お嬢様や妹達と合流するのが先決だな。 私は近くに走っている道へ向かって歩き出そうとした。 その時――。 「……誰だぁ……こんなところで……何をしてるんだぁ……」 突如、右の方からまぶしい光が目に差し込み、低いしわがれた声がした。 すかさず、その方向を向くと……そこには懐中電灯を手にした人影があった。 「貴様こそ誰だ」 私はすかさず問いかけを返すが……相手はただ私に懐中電灯の光を向けるのみ。 それも光線はゆらゆらと揺れていて、時折その人影の全貌が見える。 服装からして、現地の警官らしい。 魔力反応は無い。どうやら人間のようだ。 が……様子が何か変だ。 服装は所々汚れて、破れもあり……。 姿勢もどこかふらふらしていて、今にも倒れそうであった。 さらに、懐中電灯の光を遮るようにして右手をかざし、目を凝らして見たが……。 ――明らかにおかしい!! 青地のシャツにおびただしく広がっている……赤いシミ。 右手には……おそらく拳銃! そして、顔は青白く、目からは赤い液体を流していて……白目を剥きながらへらへらと笑っている! 最初こそ現地の人間はこんなものかと一瞬思ったのだが……どう見てもその顔に生気は感じられない! 何をされるか分かったものじゃない。 すかさず、ISがいつでも発動できるように体勢を整えた。 「……怪しいやつだなぁ……」 警官はそんな事をしわがれた声で呟きながら……拳銃の銃口を私に向けた! まずい! 「IS、ライドインパルス!」 声を発するとともに、私の腰と足首から翼状の紫色光が発生する。 「……了解……射殺します……」 そう言うとともに、乾いた音ともに銃弾が銃口から発射された! 「アクション!」 すかさず瞬間移動を試みた。 私の体はすぐさま後方に飛び、直後、銃弾が私の鼻先を掠めた! ――!! 異変は起こった。 ライドインパルスの翼が即座に消滅したかと思うと、突如、全身が気だるくなり、息苦しくなる。 呼吸が異様に荒くなり、胸のあたりが激しく痛み出す。 思わず私はその場に蹲った。 な、なぜ? 私は戸惑いを隠せなかった。 ライドインパルスを発動させれば、少なくとも1キロ以上は移動できる。 が……先程の移動はせいぜい1メートル弱しか移動していない! 銃弾はおろか、警官の視線の届かない所まで行けるはずなのに! そして、この異様なまでの体の疲れは何だ! 今、自分自身に起こった事象を理解できないまま、激しい動悸のあまり、その場から動けずにいた。 そう――私を狙った警官に十分なまでの隙を与えて……。 しまった――と思ったときにはすでに遅かった。 乾いた音ともに、左腕が異様に熱くなり、激痛が襲った。 「あぐっ!」 思わずうめいてしまう。 撃たれた左腕をすかさず目にする。 そこには小さな穴が開いていて、血が流れ出していた。 さらには打ち抜かれて破損した機器の破片が少し突き出ていた。 ショートしているらしく、時折火花が散っている。 「……無駄な抵抗はやめなさい……」 警官は不気味ににたにたと笑いながら……私の頭に銃口を向けていた。 意識が朦朧としてきた。 私は逃げ出そうと思いながらも……その場から動けずにいた……。 ―to be continiued― 前へ 目次へ 次へ
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―Lylycal Nanoha StrikerS × SIREN ~Welcome to Hanyuda vil~― part8 フェイト・T・ハラウオン 合石岳/蛇頭峠 初日/2時13分33秒 どうなっているの……さっきも同じところを通った気がしたのに……。 目の前には……何かしらの神をかたどった石像。 確か……道祖神とかいったかな。 この石像を見たのはこれで4回目。 まさかさっきのものとは違うものか……と淡い期待を抱くものの、それはすぐに打ち砕かれる。 右隅に目印として積み上げた数個の小石……これが、先程も訪れた所であることをはっきりと示していた。 おかしい……ここからはほぼ直線に進んだはずなのに……。 とすれば、考えられることは一つ。 この空間が何かしらの力で捻じ曲げられて、閉鎖空間と化しているという可能性。 思えば、あのサイレンが鳴って、墜落して、気絶して……目が覚めたころから……様子がおかしかった。 雨が頬に叩きつける気配がして目が覚めたのだが……。 その時目にしたのは……赤い雨。 そして、その背後には夜空を不気味に照らす……赤い空。 確か……かつて私がこの世界にいたときは……こんなことはなかった。 さらにおかしいと思えることはまだまだある。 上空を見上げると、さっきまでいたはずのフリードリヒの姿が無い。 ついで、スカリエッティ一味の召喚師の召喚獣の姿も、無数に空を埋め尽くしていたガジェットも見かけない。 それどころか、気配すら感じない。 キャロとか、なのは達に連絡をとろうとしても、まったく出来なかった。 なぜか、通信用の空間モニターは起動せず、念話すらできないのだから。 どう見ても……時空の歪みが生じて……異空間に放り込まれたのだろう。 過去数回に発生した例は報告されていたが……私が巻き込まれるとは。 迂闊だった。 私はため息をつくと……そのままその場に座り込んだ。 1時間近く延々と歩き回ったのだ。疲れるのも無理は無い。 なにせ……飛行魔法も使えないのだから。 ついで、魔法攻撃も……ほぼできない。 辛うじてバリアジャケットを装着できているのみ……そんな状態だった。 バルディシュも……同じような状態だった。 形こそ保っているものの、本来の3%しか起動していない……状態表示を見た限り、そんなところだった。 外部からの何かしらの力によって……デバイスに対して、97%もの制限がかかっている。 しかも、魔法を発動させても、なぜか直後に全身に激しい疲労が襲い、胸が苦しくなり、呼吸困難を起こしかねない状態になる。 まるで、最大級の破壊魔法を命と引き換えといわんばかりに全力で放ったかのように。 それは……先程、自分の身をもって実証したばっかりだった。 「……ふへふへふへ……」 背後から……不気味な笑い声。 生気が抜けていて……生きている者が発しているとは到底思えない、しわがれた声。 ――! すかさず背後を振り返った。 そこには、斧を持った……男性。 服やつけている帽子は土まみれで、破れも目立ってボロボロだった。 赤いシミまでも無数についている。 そして……肌は青白く、目からは赤い液体を目から流している。 ……懲りない連中ね……。 私はため息をつきながら、バルディッシュを足元に置くと……もう一方の手で持っていた鉈を振りかざした。 「……ふへふへふへ……」 そいつはなおもひるむ様子はなく、へらへらと笑いながら、斧を振り上げてきた。 その隙を逃さず、そいつの脇腹に鉈の刃を叩きつけた。 「ぐぇっ!」 不快なうめき声とともに、手には肉の潰れる感触が伝わってくる。 ぐじゃりという、肉の潰れる音が、なおも不快感を掻き立てる。 だが、そいつはなおも斧を私に振り下ろそうとした。 すかさず私は鉈をそいつの脇腹から抜いて、足に勢いよくぶつける。 「ぎゃっ!」 そいつは斧をなおも握ったまま、その場に転げ落ちる。 間髪いれず、私はそいつの頭に……ためらい無く鉈の刃を叩き込んだ。 「ぎええええええ!」 絶叫とともに、そいつは動かなくなった。 私はそれを見届けると、置いていたバルディッシュを手にして、すぐさまその場から逃げ出した。 しばらくしても……傷を元通りに治して、何事も無かったかのように、襲い掛かってくるのは目に見えているから。 まるで……ホラー映画なんかに出てくる、ゾンビやグールみたいに。 さっきから、すっとこんな調子だった。 出会う地元の人間は……こんな生ける屍ばかりだった。 倒しても、5分もしないうちに元通りになって動き出す。 とんでもない生命力を持った奴らだった。 最初、奴らは集団で出てきたので……プラズマスラッシャーで攻撃した。 ためらいこそはあったものの……私に攻撃しようとしたから。 奴らはすぐさま倒れたが、同時に先述のような激しい疲労が私を襲った。 しかも直後に別の生ける屍どもが襲い掛かってきたときに、魔法を放とうとしても……発動すらしなかった。 おまけに、倒した屍どもが何事も無かったかのように立ち上がって、襲い掛かってきたのだった! このときばかりは焦った。 とにかく、逃げるだけ逃げて……しつこく追う生ける屍の頭をバルディッシュで殴った。 がむしゃらに何度も殴って、ようやく倒れた。 さすがに気分の悪いものではあったが。 だが、こんなことを繰り返していては……バルディッシュが完全に壊れてしまう恐れもある。 わたしはそいつが手にしていた鉈を奪って……次から次へと襲ってくる屍どもをなぎ倒してきたのだった。 鬱陶しい……疲れた……。 私は周囲に奴らの気配が無いことを確認すると、その場にへたりこんだ。 当初は生ける屍を倒すのに抵抗感もあったが……何体も相手にしているうちに、感覚が麻痺してしまったのかもしれない。 今では迷うことなく、奴らに攻撃していたのだった。 疲れがましになったころに行こうか……そう思い、目を閉じた時。 ――!! 視界にいきなりテレビの砂嵐のような画像が映ったかと思うと……すぐさま別の映像が目に映りこむ。 な、なに……これ……? 自分の目に何が起こったのか……最初はまったく理解できなかった。 ノイズが混じっていたものの……誰かがどこかを見ているような目線。 「……へへへへへ……」 荒い息とともに、気の抜けた笑い声が聞こえる。 視界にはそいつが手にしていると思える……猟銃の筒先が見えた。 そして、その手は傷まみれで、骨が露出していた。 ――おそらく、生ける屍のもの……? その視線の先には……森の中を通る砂利道。 その中に人影が一つ。 気を背にして座り込んでいる……金色の髪をツインテールに結わえた女性。 黒いリボンをつけていて、白いマントを羽織っていて、杖状のものを脇に立てかけて……って、見覚えが……。 ――バルディッシュ!? ということは、映っているのは私自身!? そこで再び砂嵐が映りこみ……視界が私のものに戻った。 全身に寒気が走る。 途端に、後ろを振り返ると……そこには猟銃を構えた生ける屍が! 狙いを私に定めて、今にも発砲しそうだ! ――しまった! やたらと冷たい汗が頬を伝う。 私が咄嗟に木陰に隠れた直後に……乾いた銃声がした! ――鉈は……置いたまま。 取りに行ったら、間違いなく撃たれる! 生ける屍はじりじりと私に近づいてきた。 銃を乱射しながら。 猟銃だから恐らく弾切れを起こして、弾を装填せざるを得ないから……その隙を狙うしか……。 そう思った時だった。 パーン! どこからともなく、別の銃声がした。 「ぎええええ!」 私を狙っていた生ける屍は、絶叫を上げながらその場に勢いよく倒れこんだ。 ――! すかさず、銃弾が放たれた方向に向き直る。 「……他所者か……?」 その先には猟銃を構えた……高齢の男性が立っていた。 手にしている銃からは、煙がゆらゆらと立ち上がっている。 目つきは鋭く、かなりの歳と思えるが背筋をしっかりと立たせている。 身なりからして猟師のようだ。 そして……目から赤い液体を流していて、肌は青白く……なんてことはなく、見た限り生気のある人間のようだ。 私はほっと胸を撫で下ろすと同時に……次に何をしていいのか思い浮かべず……ただじっとしているだけだった。 「どうやら大丈夫なようだな」 その老人は鷹のように鋭い視線を私に向けていた。 ―to be continiued― 前へ 目次へ 次へ
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―Lylycal Nanoha StrikerS × SIREN ~Welcome to Hanyuda vil~― part6 宮田司郎 蛇ノ首谷/折臥ノ森 初日/0時36分24秒 「ばかな……」 俺は目の前の光景に呆然とした。 な、なんてことだ……。 ぽっかりと地面に開いた穴。 脇に乱暴に投げ捨てられたブルーシート。 使ったシャベルもいつのまにか無くなっている。 お、俺は確かに埋めたはずなのに! …………を! 先程のサイレンがして、地震が起きたかと思ったら気絶していた。 どこからか女の悲鳴が聞こえて、目を覚ましたら……この有様だ。 気絶している間に何が起きたのかを把握しようとした。 まさか、俺が気絶している間に誰かが掘り起こして……? そんなことは……。 俺は冷静になろうと、目を閉じた。 その時、奇妙なことが起こった。 いきなりテレビの砂嵐のような画像が映ったかと思うと、すぐに別の映像が映る。 どこかを走っている……誰かの視線。 見た限り、長袖の濃い青色系統の服を着ていて、黒い手袋をしているようだ。 そして、左手には……ナースシューズ!? そこで再び砂嵐が映りこみ、元通りの俺が見ている視線に戻る。 な、何なのか、これは? 一瞬俺は何が起こったのか分からなかった……。 他人の視点で物を見る能力が備わったとでも? 馬鹿馬鹿しい。 幻覚か……と思ったが、先程見えた映像に気になるものが映りこんでいたのを思い出す。 あのナースシューズに書かれていたイニシャル……明らかにあれは……。 てことはまさか……こいつが地面を掘り起こして……? そうでなくとも、一部始終を見ていて、証拠として持ち去った!? まずい! これは想像の域を越えないものの……こいつは俺のしたことを知っている可能性が高い。 処理しておいた方がよさそうか……。 俺はすぐさま駆け出した。 ※※※※ トーレ 上粗戸/眞魚川護岸工事現場 初日/1時02分42秒 まさに最悪。 今の私の状況をいえば、こんな形になるのだろう。 ISは全く使用できず、体自体も疲労のあまりろくに動けず……。 おまけに左腕は撃たれて、目の前には私に銃口を向けている警官が……。 意識を朦朧とさせながらも、私は視線を周囲に向けた。 ――武器に使えそうなものは……ない……。 内心でため息をつく。 万事休す……か? 「……抵抗するなら……射殺だ……」 警官はゆっくりと拳銃の引き金に力を入れだした。 ――いや……この体の状態でやるにはリスクは高すぎるが……やるしかない。 私は力を振り絞って……警官の足をめがけて蹴りを入れた。 パーン! 銃弾が発射される乾いた音。 ただし、警官が狙っていたのとは、まったく違う方向に向けて。 そのはずだ。 蹴りを入れて、警官が姿勢を崩して倒れる際に発射されたのだから。 警官は手足をじたばたさせながらも、私をぼんやりと眺めていた。 私はすかさず、重い体をゆっくりと起こすと、ふらつきながらもその場を後にする。 「……こらぁ……逃亡するなら射殺だ……」 背後から警官の恨めしげな威嚇の声がする。 が、私はそれに振り返ることなく、ひたすら木の茂みの中に飛び込んだ。 パーン! 再び乾いた音。 「うっ!」 右足に激痛が走る。 銃弾が掠ったのだ。 痛みのあまり立ち止まりそうになるが、それを押してなおも前進を続けた。 背後からは私に向けた懐中電灯の光が差し込む。 く、くそ……なんとか逃げなければ……。 正直、抵抗する体力はない。 逃げるだけでも精一杯だ。 茂みを掻き分けながら、なおも前に進むが……。 ――!! 足を踏み出したときには遅かった。 地面が……なくなっていて、私の体はそこから下へと転げ落ちていった。 し、しまった……。 崖を転げ落ちながら、そう思った。 受身の姿勢なんか……到底取れそうに無い。 やがて、水に飛び込んだ感触とともに、落下した衝撃が体に伝わると……そのまま意識を失った……。 ※※※※ クアットロ 刈割/切通 初日/1時44分42秒 な……どうなっているのよ、これ……。 目の前に広がる光景に、呆然としてしまうあたし。 山の斜面に作られた段々畑。 捨てられて、荒れ果てていた畑だが……それら全ては真っ赤に染まっていたのだから! 下らないホラー映画のセットか何かのつもり? 一瞬、あたしはそんなことを思ったが、それはすぐには違うと実感させられた。 「……ぐああああああ……はがを荒らすなぁぁぁ……」 背後からババアらしきしわがれた声。 後ろを振り返ると……血に染まったナイフを持ったゾンビが! ぱっと見、人間の老婆らしいが、服はボロボロ。 おまけに肌は青白く、白目を剥いていて、明らかに死んでいると分かる…… そいつが赤い液体を流した目で、あたしを睨みつけ、息を荒げながら、あたしにナイフを突き刺そうとしていた。 「うざいのよ!いい加減にして!」 あたしはすかさず手にしていた鉄パイプをゾンビババアの頭に振り下ろした。 ぐしゃりという嫌な感触とともに、ババアは一瞬ひるむものの、すぐに立ち直り、ふたたびあたしに襲い掛かってきた。 あたしは容赦なく、何回も老婆の頭に鉄パイプを叩きつけた。 「……ぐえええええ……」 低いしわがれ声の悲鳴とともに、ババアの体はすぐに崩れ落ちた。 頭は形が崩れて、砕けた骨が外に覗かせている状態。 とっくに死んでいるだろう……それが普通の人間だったなら! あたしはそれを見て、すかさず逃げ出した。 そのままいても……数分もしないうちに、また立ち上がって、何事も無かったかのように襲い掛かってくるんだから。 本当に鬱陶しいったらありゃしない。このゾンビどもは。 一体、何してるんだろ……あたし。 赤い水の張られた畑の脇の畦道を駆け出しながら、ふとそんな事を思った。 あのサイレンが鳴ってから……おかしくなっちゃったみたい。 いきなり、ISの効果がかき消されて、地面に墜落して気絶。 目覚めて、お嬢様やトーレお姉様に妹達を探していたのだけど……出会うのはこのゾンビどもばかり。 最初はシルバーカーテンで姿を消してやり過ごそうとしたが、ものの数秒で効果が切れてしまう有様。 おまけに胸が締め付けられるぐらいに息苦しくなって、思い切り疲れるものだからたまったものじゃない。 しばらくは木陰に身を隠して、やり過ごしていたが、ふとしたはずみで崖底にこのゾンビを突き落としてしまった。 最初こそ、やっちゃった……なんて思ったけど、すぐさま自ずと傷を回復させて、何事も無かったかのように歩き出す様を見たときは、正直驚いちゃった。 さすがに埒があかなくなって、落ちていた鉄パイプを拾って、襲ってくるゾンビどもを殴り倒している。 ドクターの指令とは……到底かけ離れたことをしている、そんなあたしだった。 本当に、サイアクよ! レリックどころじゃないわ! 心の中で恨み言を呟きながら、なおも走っていると、頬に冷たいものが濡れる感触がした。 どうやら、雨が降り出してきたみたい。 そう思って、ふと空を見上げようとしたとき……その様子にまたびっくりさせられた。 何せ……赤い雨が降っていたのだから! 気色悪いわよ!何、これ? どこまでふざけているのよ、この世界は! ホントにサイアクよ! このまま、赤い雨に濡れているのも気持ち悪いので、とにかく雨宿りが出来そうな場所を探す。 やがて、目の前に大きな建物が見えた。 聖堂教会の分教会の建物とよく似ている。何かしらの宗教施設? まあ、いいわ。ここで雨宿りさせてもらおうかしら。 やがて、入口らしきドアの前まで辿り付く。 鍵は掛かっているようだった。 ちなみに周囲にはあのゾンビどもはいない。 「誰かいるの?開けてよぉ!」 あたしはドアを乱暴にたたきながら、ひたすら声を掛けた。 だが、数分くらいそれを続けても、ドアが開かれる気配は全く無い。 「いないの?だったら、窓を叩き割るけどいいの?」 あたしはすかさず、脇に廻って、本当に窓を鉄パイプで叩き割ろうとした、その時。 ギギギ……。 重苦しい軋みとともに、ドアがゆっくりと開く。 「だ、誰ですか……」 開いた入口から顔を覗かせたのは……一人の男性。 髪をオールバックにして、黒い服を着た……見るからにひ弱そうな若い男だった。 顔に生気はあり……どうやらまともな人間のようだった。 「いるなら返事してよぉ。とにかく中に入れて!」 「え……あ、あなたは……」 あたしはすかさず、入口に駆け寄ると、あたしに尋ねかける若い男に構わず、中へと入り込んだ。 ―to be continiued― 前へ 目次へ 次へ
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―Lylycal Nanoha StrikerS × SIREN ~Welcome to Hanyuda vil~― part4 ルーテシア 羽生蛇村小学校折部分校/校庭 初日/1時07分17秒 「ガリュー……来ないのはなぜ……」 何度も召喚を試みても……ガリューは全く姿を現さず、何事も無かったかのように魔方陣は消滅……。 アギトにガジェット、さらにはジライオウやハクテンオウを召喚しようとしても……結果は同じ。 アクスレピオスが反応して、魔方陣が発生するものの……すぐに消滅……。 今までこんなことは無かった。 正直……戸惑うばかりだった。 あたしはただ、内心おろおろしながら、その場に立ち尽くすだけだった。 思えば……始まりはあのサイレンだったかもしれない。 機械が発する音とというよりか、何かしらの獣が発する咆哮に似ている気がした、あの音が鳴り出してから……。 空に浮いていたあたしの体は、なぜか下に向かって落ちていった。 ウーノの妹達も同じように……地面に向かって墜落していったみたい。 そして、あたしはそのままどこかの木の茂みに突っ込み……気絶していたみたい。 目を覚ますと、前には2階建ての建物。 この世界ではよくある建物のようだが……所々の窓が木の板で塞がれているみたい。 さらには耳を澄ますと……何かを打ち付ける音が聞こえる。 誰かいるの……? 一人でいるのは……どこか不安だった。 あたしはすぐさまガリューを召喚しようとしたが……結果は先程のようになったというわけ。 そういえば……ウーノの妹達もどこかにいるのだろうかとも思い、反応を探ったが……今のところ近くにいる気配は無い。 あたしはため息を一つついて……どうしようかと思っていた……その時。 「はるみちゃん、こっち!」 「うん……怖いよ……」 そんな話し声とともに、人影が二つ――大人と子供らしい?――が、建物の中に駆け込むのが見えた。 表情までは見えなかったが……何か異変がこの周囲に起こったのが多少なりともうかがえる。 一体何が……と、思ったその時だった。 ……はぁはぁはぁ……。 背後から荒い息の音がした。 慌ててあたしは振り返った。 「……うひひひひひぃぃぃ!」 そこにいたのは…… 息を荒げて……鑿を手にした…… 服はボロボロで…… 顔は青白く……目から赤い液体を流している…… ……生きているとは思えない……不気味なにやつきを見せている……人間……! 鑿には赤い液体が滴り落ちている……!? な、何? あたしは思わず、目の前の異様な人影に身じろいだ。 「……よそものは……出て行けぇぇぇ!」 同時に……鑿が勢いよくあたしに向かって振り下ろされた! 咄嗟に横に見をそらした直後、背後にあった木箱に鑿が深々と突き刺さる! こ、殺す気なの……こいつは……? あたしはほんの一瞬、そいつが懸命に鑿を抜こうとしているのをじっと眺めていたが…… ――このままでは……やられる! あたしはすかさず、魔法をそいつに向けて放った。 「ぐああああああ!」 人間が発するとは思えない、甲高い絶叫を上げて、そいつはその場に蹲った……。 が……。 ――!? 魔法を放った途端に……やけに胸が苦しくなった。 息苦しくなり、思わずその場に倒れそうになる。 こ、こんなことって……? これまでなら何事もないはずなのに……何故こんなに疲れるの……? あたしの体を襲った突然の疲労に、戸惑いを隠せない。 ふと、目の前で蹲っている、あたしを襲った人間を目にする。 動く気配はまったく見せない。 今の一撃で、普通の人間なら重症を負うのは間違いない。 ひょっとしたら、絶命したかもしれないが……それはそれでやむを得ない。 やがて、激しい動悸が収まりかけ、その場を離れようと背を向けた。 その時! 「……よそ者は……出て行けぇぇぇぇ!」 まるで獣の雄叫びのような絶叫をあげ、そいつは何時の間にか立ち上がっていた。 そして、あたしに鑿を振り下ろそうとしている! すかさず、背後に飛びのき、再び魔法を放とうとするが…… ――アスクレピオスは何の反応も示さない! ただ、沈黙したままだった。 ど、どうなっているの……!? 今この場で起こっている事態が……あまりにも信じられなかった。 やけに混乱してしまい、思わずその場に立ちすくむ。 逃げなきゃ! 警鐘が頭の中で鳴り響いているものの、体がまったく動かない! 頬を冷汗が……ゆっくりと伝わるのが感じられた。 そうしている間にも……そいつはあたしに鑿を振り下ろし出して……! ―to be continiued― 前へ 目次へ 次へ
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―Lylycal Nanoha StrikerS × SIREN ~Welcome to Hanyuda vil~― part9 キャロ・ル・ルシエ 蛇ノ首谷/折臥ノ森 初日/0時45分54秒 「い、いやあああああ!」 どこからともなく、いきなり聞こえた女の子の叫び声。 思わず、わたしは身を震わせてしまった。 だ、誰かが……あのバケモノに襲われているの……? わたしはその方向を振り向こうとしたが……できなかった。 体が動かない。 動かそうとしても、動けなかった。 ……今動いたら……わたしが見つかっちゃう……。 あまりにも怖くて……茂みから飛び出す勇気なんて出なかった。 ただ、その場で縮こまっているだけ……それが精一杯だった。 「……せんせぇ……どこにいるのぉぉぉ!」 バケモノは身の毛のよだつような絶叫を上げた。 そして、ガラガラという金属を引きずる音を思い切り上げながら……どこかへ走り去ったようだった。 音がだんだん小さくなっていくことからそれがうかがえる。 「…………」 わたしはなおもそのままじっとしていた。 そして、ガラガラという音が無くなったのと同時に……ゆっくり身を起こして、茂みから恐る恐る出た。 目の前には誰もいなかった。 何事も無かったかのように、静まり返った森があるだけ。 ふと、地面に目をやると……何かを引きずった線状の痕が道の向こうにまで伸びている。 それに沿うように、二組の足跡が砂利道にくっきりと残っていた。 た、助けに行かなきゃ! わたしはとっさに走り出した。 でも、魔法も召還もできない……この状態で? ふと、そんな疑問が湧きあがって……ひとりでに足は走り出すのを止めていた。 そして、歩くのすらやめて、その場に立ち尽くす。 フリードがいて、アルケミックチェーンなんかを召還できたら……何とかなっていたかもしれない。 でも、それはできない。召還もできないし、魔法も使えない。 何もできない。 そんなわたしが飛び出しても……何もできるわけがないよ……。 そうだ……そうだね……。 あの悲鳴もひょっとしたら、バケモノだったかもしれないんだ。 そうだったら……飛び出さなくて良かったのは目に見えている。 そうだ、そうなんだろう……そうに違いないよ……。 わたしは……むなしく笑いながら、ただ歩いていた。 バケモノに追われた女の子を見殺しにして、助けに行こうとしなかったわたし自身を…… 必死に正当化しようと、そうなるような憶測を並べ立てて。 勇気を出せなかった、わたしの弱さから目をそらそうとして。 それへの悔しさをけんめいに隠そうとして。 その時、ふと感じた……頬を一筋の涙が伝うのを……。 ※※ クアットロ 刈割/不入谷教会 初日/2時01分39秒 「……儀式は成功したのだろうか……大丈夫なのかな……」 目の前にいる若い男は、落ち着かない様子で、窓の外を眺めたり、教会内をせわしく行ったり来たりしている。 挙句の果てには、目をキョロキョロさせながら、訳のわからない独り言を呟いているのだからたまったものじゃない。 このキモい男――牧野慶とかいったっけ――は、ただあたふたとしているだけ。 適当に自己紹介なんかを終わらせて(もちろんあたしはこの空間に迷い込んだ遭難者ってことにしたけど)、 この空間で何が起こっているのかをいざ聞き出そうと、話をしていたらこれよ。 村の儀式の話になった途端にテンパっちゃうんだから。 傍から見ていれば面白いんだけど、それもしばらくしたら飽きてくる。 『マナ教』とかいう土着の宗教の求導師をしているから、ひょっとしたらこの空間の秘密や、 あわよくばレリックの事も知っていると思ったのだけど……結果は不発ってわけ。 知っているどころか、何も知らされずに、周囲に煽られて単にやっているって感じ。 「……ああ……八尾さん、早く帰ってこないかな……」 慶は今にも泣き出しそうな顔つきで、出入口の扉の前を行ったり来たりしている。 オールバックの髪型に、黒い求導師の服を身にまとって、ぱっと見ではいけてる男に見えるのだけど……ホント、台無し。 「あらぁ~求導師様ぁ。ちょっとは落ち着いたらどうですかぁ?折角の面子が台無しですわよ」 「そ、そんなこと言いましても……様子を見に行くって言ったきり、ずっと帰ってこないから不安で仕方ないのです……。 求導師として心配しないわけにいかないでしょう」 慶はその場にうなだれながら、大きくため息をつく。 ともかく――求導師として……というのは言い訳ね。 早く帰って来て、構って欲しくてしかたがないっていうのが見え見えよ。 てか、不安で仕方ないのだから自分から探しに行けばいいのに、それすらできない。 自分からは動こうとしない。人から言われなきゃできない。 このキモい彼がいう八尾さんってのは、どうもこの教会の求導女とのこと。 で、彼が小さいころから付きしたがっている人で……言ってみれば母親同然の立場らしい。 度々不安になっても、彼女がやさしくしてくれて、なんとか安定しているという。 正直、この男は極度のマザコンで、優柔不断という、極めて頼りないヘタレってわけ。 本当に気持ち悪いったらありゃしないわね。 使えないわね、コイツ。 こんな所にじっといるよりも、雨が止めばさっさと抜け出して、ルーお嬢様やお姉様を探した方がよっぽどいい。 そう思うところだけど、一つだけ気になることがあった。 その八尾って女、昔からこの教会にいて、慶はもちろん、村人からもさながら神のように慕われている……。 つまり、この女がこの空間の秘密を知っている可能性が高い。 本人に会って話を聞き出したら、何か得るものがあるかもしれない。 それまでは、せいぜい使ってやるわ……このヘタレ。 あたしはふと窓に目をやる。 窓の外は相変わらず暗かったけど……今まで激しくたたきつけていた雨は止んでいた。 見た限り、あのゾンビどももいない。 「よかったら、今から八尾さんを探しに行きませんこと?」 あたしは慶がドアの方に再び目をやった瞬間を狙って切り出した。 「な、何をいきなりおっしゃるのですか……」 いきなりのことにあたふたとする慶。 「ここでじっと待っているだけでは、不安が募るばかりですわ。だったら、すぐにでも行動に移したほうがいいですわよ」 「で、でも……あなたを一人っきりにしたら……その時にあの屍どもが襲い掛かってきたらどうするのですか」 慶はおろおろしながら、あたしと外の方を交互に目を向けていた。 求導師として、保護した遭難者が襲われたときの責任と、それによる後ろめたさに怯えているのね。 本当に、情けないオトコ。コイツは。 「クアットロのことならご心配なく。それよりも、こうしているうちに求導女様が襲われたらどうしますの?あ・な・た」 あたしは慶の耳元でそっと呟いた。 「そ、それは……」 慶は目を泳がせて、余計にあたふたし出す。 それを見て、あたしは最後の一押しをしてやった。 「だったら、クアットロも一緒についてあげますわ。ほら、行きましょう……うふふ」 あたしは立ち上がり、慶に抱きつきながら、ゆっくりと出入口へと進もうとする。 本人がぶるぶると震えているのがわかる。怖がっているのが丸分かりよ。 「は、はい……」 さすがに今度はこのヘタレも抵抗はしなかった。 あたしに言われるがままに、教会の戸を開け、外へと足を踏み出す。 こいつはこいつで、この村では有力者みたいだから……それも使わせてもらうとして……。 ……いざとなったら切り捨てればいいか。 あたしは入口脇に立てかけていた鉄パイプを手にして、求導師のあとに続いた。 ―to be continiued― 前へ 目次へ 次へ
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―Lylycal Nanoha StrikerS × SIREN ~Welcome to Hanyuda vil~― キャロ・ル・ルシエ 蛇ノ首谷/折臥ノ森 初日/0時27分45秒 じりじりと歩み寄ってくる……目から赤い液体を流したバケモノ。 わたしは思わず両手で自分の顔を覆った。 ぶんっ! 振り下ろされた鎌は……空を切って……わたしの真横にある木に深々と突き刺さった。 そいつは突き刺さった鎌をふらふらとしながらも、懸命に抜こうとしながら……わたしをじっと見ていた。 にたりと……不気味な笑みを青白い顔に浮かべたまま。 「いやあああああああ!」 その瞬間、わたしは悲鳴をあげて、一目散にその場から立ち去った。 まるで金縛りが解けたかのように。 後ろを振り返らずに、わたしはただ全力で走り出していた。 行く当てなんて全く無い。 でも、とにかく……ひたすら走った。 ふと目をつぶった時に……また、ノイズの混じった風景が見えた。 そこに映っていたのは……。 異様なまでの息遣いで、ふらふらしながらも……ある一点をめがけて走っていた。 わたしの後姿をじっと見つめて! そこで再び、目に映る光景がが元に戻る。 ふと、後ろをふと振り返ると……。 「……こらこらぁ……待でええええ!」 あのバケモノが鎌を振り上げながら、わたしを追いかけてきていた! ひ、ひぃ……。 わたしは思わず悲鳴をあげそうになりながらも、前を向きなおした。 目の前には茂み。 すかさず、その中に潜り込んで、さらに前へ進んだ。 ――!! その先には地面が無かった。 急な斜面になっていたのか、わたしの体は勢いよく転がり落ちた。 気付いた時にはすでに遅かった。 高さはそんなに無かったものの……斜面の下の潅木の茂みに体が突っ込み、全身に痛みが走る。 体を動かすことすら出来ない。 気絶しかけたものの……そこでまたあのノイズの混じった画像が。 異様なまでの息遣いで、ふらふらしながらも……ある一点をめがけて走っていた。 わたしの後姿をじっと見つめて! そこで再び、目に映る光景がが元に戻る。 ふと、後ろをふと振り返ると……。 「……こらこらぁ……待でええええ!」 あのバケモノが鎌を振り上げながら、わたしを追いかけてきていた! ひ、ひぃ……。 わたしは思わず悲鳴をあげそうになりながらも、前を向きなおした。 目の前には茂み。 すかさず、その中に潜り込んで、さらに前へ進んだ。 ――!! その先には地面が無かった。 急な斜面になっていたのか、わたしの体は勢いよく転がり落ちた。 気付いた時にはすでに遅かった。 高さはそんなに無かったものの……斜面の下の潅木の茂みに体が突っ込み、全身に痛みが走る。 体を動かすことすら出来ない。 気絶しかけたものの……そこでまたあのノイズの混じった画像が。 そこで視点はわたしのものに戻る。 慌てて、後ろの方を見る。 わたしのマントが……茂みからはみ出ているようだった。 しかも動いた時に、がさがさと木の葉の音が立ったものだから……。 「せんせー……いるの……」 遠くから……あのしわがれた声がした! 視線が切り替わり……わたしがいる茂みが映る。 白いマントがはみ出た箇所にじっと視線を集中させて! 「……せんせー……大丈夫でずがぁ……」 そいつは、ものすごくゆっくりとした動きで……茂みとの距離を縮めていく! 視線が元に戻り……耳を済ますと、なにか金属のようなものを引きずる音がした。 恐らく手にしているシャベルを引きずっている音。 不規則に立てるがらがらという音は……着実に大きくなっていく。 さらには荒い息遣いまで……! もう……いや……許して……。 わたしはただ……じっとそいつが近づいてくるのに何も出来ず……じっと息を殺して固まっているだけだった。 ※※※※ セイン 蛇ノ首谷/折臥ノ森 初日/0時18分36秒 本当にどうなってるの……マジでわけわかんない! あたしはただ、木陰に身を隠しながら、目の前にいる奴が通り過ぎるのをじっと待つしかなかった。 手には猟銃らしきものを持って、ボロボロの服を着た……目から赤い液体を流した奴。 あたしを探しているのか、しきりにキョロキョロしながらふらふらと歩いていた。 あのサイレンが鳴ってから、なぜか地面に突き落とされて……目が覚めたら、こいつに銃口を向けられていた。 とっさにISのディープダイバーを使って、その場はやり過ごしたけど……正直気分のいいものじゃない。 おまけにものの数分で息苦しくなって、地中に潜りきれなかったし。 おかげで、奴には速攻で見つかってしまって、銃を乱射されながら追い回される羽目に。 なんとかここまでは逃げ切っているけど……異様に体が疲れてロクに走れなかったし。 今までこんなことはなかった。 マジでロクでもないよ。 あたしは訳がわからず……ただひたすら逃げるしかなかった。 トーレ姉やクア姉にセッテ、さらにはルーお嬢様も心配だけど……正直それどころではない。 レリックや管理局の連中なんて、どうでもよくなってきた。 とにかく、今は目の前の奴から逃げるのが先決! じっと息を殺して……ふと目を閉じると……いきなりノイズが走った。 え?何? 何が起こったかまったく理解できないまま、映像が切り替わった。 そこに映っていたのは……猟銃を手にして、やたらと周囲を見回している誰かの視線。 「……バケモノはどこだ……撃ち殺してやるぞぉ……」 荒い息を立てながら、そんな事をしわがれた低い声で口にしている。 恐らく……あたしを追いまわしている奴の! 奴が目にしている景色の中には……あたしが身を隠している木も映っていた。 再びノイズが走り……あたしの視線に戻る。 い、今のは……一体何なんだよ……。 あたしはさっき自分の身に起こったことが何なのかを思い起こす。だが、一瞬で訳がわからなくなってしまい、考えるのをやめた。 てか、バケモノはどっちだよ! 思わずツッコミたくなるものの、今はただじっとしているしかない。 「……あっちか……」 奴がそう呟くのが聞こえた。 思わず体を小刻みに震わせるものの、すぐにじっとする。 やがて、奴はあたしがいるのとは別の方向へ歩き出していった。 「…………」 しばらくはそのまま身動きせず、奴の姿が完全にいなくなったのを確認して、あたしは木陰から身を乗り出した。 そして、すかさず奴が行ったのと正反対の方向へと、駆け出していく。 とにかく、まずはルーお嬢様を探して……。 そう思っていた、その時。 ボコッという音ともに。 脇の地面が盛り上がり出して……人の手が突き出した! 「ひぃっ」 情けない声を上げながら、すかさず近くの木陰に身を隠す。 ち、ちょっと待ってよ……どこかの下手なホラー映画じゃないしさ……勘弁してよ! さらに、地面から突き出た手の周囲の地面が勢いよく盛り上がったかと思うと……中から人の体が勢いよく突き出てきた! 青いシートが頭からかぶさっていたものの、そいつは手でそれを手で撥ね退ける。 そこから出てきたのは……人間の女のようだった。 土にまみれた白いワンピース状の服に角張った帽子……そう病院なんかにいる看護師の服装の……女だった。 ただ、顔や肌は青白く……目からは赤い液体を流していた! 半そでの服から突き出た腕や、靴が片方脱げている足も、まるで死体のように生気がない。 さっきの奴と同じじゃない……てことは何? こいつらゾンビか何か? そんなのが堂々といるなんて……何て世界に来ちゃったんだろ。 マジでレリックどころじゃないよ、これ。 「……せんせー……どこですかー……ひどいですよぉぉ……」 そいつはしわがれた声で、叫びながらしきりに周囲を眺め回す。 しばらくはそれを繰り返していたが、やがて近くに突き刺さっていたシャベルを手にすると、自分が出てきた穴を掘り返し出した。 「せんせー……中にいるんですかぁぁ……」 そいつはのんびりとした動きで、ふらつきながらも延々と地面を掘り返していた。 こ、こいつマジでバカ? あたしは少し唖然としながらも、なんとか逃げ出す隙をうかがっていた。 やがて、そいつは掘り返す手を止めて……周囲を眺め出した。 その中にはあたしが隠れている箇所も含まれていて、思わず視線が合いそうになったのでとっさにしゃがみこんで、身を隠す。 ああ……なんていうか心臓に悪いよ……。 「……わかった……病院に帰ったのね……行かなきゃ……」 やがてそんなことを呟き出すと、そいつはふらつきながらも、シャベルを手にしたままどこかへ歩き出していった。 姿がなくなったのを確認して、あたしは動き出した。 木陰から出て、そいつが行った方向とは別の向きに歩き出す。 ――!? まもなく、道の上に何かが落ちているのを見つけた。 薄汚れた……白い靴……? あたしは何気なくそれを拾った。 ま、まさかこれってさっきの奴の? そいつが片方の靴を履いていないのを思い出し、思わず投げ捨てようとした。 が。 「……いやあああああ……」 どこからか、女の甲高い悲鳴が聞こえた。 それにびっくりしてしまい……あたしは一目散にその場を後にした。 靴を手にしたままで……。 ―to be continiued― 前へ 目次へ 次へ
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ミッドチルダ新暦75年8月1日 22時35分12秒 『第97管理外世界内の惑星・地球でレリックのものらしき反応あり』 突如機動六課に入った一報。 ロングアーチの面々がモニター越しに懸命に探索するも、すぐさまその反応は消滅する。 確認のため、すぐさまフォワードの部隊に出動命令が下る。 ※※※※ ミッドチルダ新暦75年8月1日 22時41分19秒 ミッドチルダ某所/スカリエッティのアジト レリックの反応を見つけたという事で、すぐさまこの陣営からも地球に向かう面々。 ルーテシアがすぐさま転移魔法を発動させる。 彼女と……トーレ、クアットロ、セイン、セッテのナンバーズの4人。 それに加えて、数十機のガジェットがみるみるうちに地球に転送されていく……。 ※※※※ ミッドチルダ新暦75年8月2日(日本で昭和78年8月2日)16時44分44秒 第97管理外世界/地球日本国/○○県海鳴市。 スターズのスバル、ティアナ。それにライトニングのエリオとキャロ。 反応は日本国内のどこかだという。 だが、一瞬で消滅したため、具体的な場所は不明。 とりあえず、東西南北を4手に分かれて探すことになった。 即座に各自は分散した。 ※※※※ 同日 23時45分49秒 第97管理外世界/地球日本国/某県三隅郡羽生蛇村付近 「すっかり遅くなっちゃったね……」 「キュア……」 キャロ・ル・ルシエは、使役竜のフリードにまたがりながら、森の上を低空飛行で流していた。 やや疲れたといった様子で、すっかり暗くなった空を見上げる。 星が瞬いているなんてことはなく、空にはただ暗雲が立ち込めている。 前方に目を移すと、そこにはただ鬱蒼とした森が広がるのみ。 わずかながら、人家のものらしき明かりが点在するだけ。 正直不気味だと思えた。 この辺で今日は切り上げて、引き返そうかと思ったとき……。 ――! 手にはめていたケリュケイオンが妙な反応を起こした。 「これって……あの時の!?」 かつて、ホテルアグスタの事件の時に見せたあの反応。 さらには……ガジェットの反応!? 思わず前方を向きなおすと……目の前にはガジェットの大群がこちらに向かっているのが見えた。 その背後には数人の人影が……恐らく、レリックを狙う戦闘機人! 今ここにいるのは、わたしとフリードだけ! 太刀打ちできそうに無い。 「フリード!引き返して!」 「キャウ!」 即座にキャロは手綱を引いて、旋回させようとした。 が……既に遅かった。 左手からいつのまにか、勢いよく飛んでくる人型の巨大な虫が、間近に迫っていた。 「ギャウウ!」 直後、虫はフリードの脇腹に勢いよくぶつかった。 大きく唸りをあげるフリード。 それと同時に口から猛烈な炎を、戦闘機人らの方に向けて放射した。 だが、虫がぶつかった衝撃でキャロがフリードの背から振り落とされ、そのまま森の中へと落ちていったのには気付かずに……。 ※※※※ キャロ・ル・ルシエ 蛇ノ首谷/折臥ノ森 同日/23時59分11秒 ――ううっ……。 足が……思い切り痛いよ……。 ずきずきとした痛みをこらえながらも、わたしはゆっくりと目を開けた。 真っ暗。 真上には森の木々が空を隠すように覆っているのが微かに見える。 後ろには何かちくちくとした感覚。 ふとそちらに目をやると、椿の枝々が私の肌に触れていた。 どうやら、これがクッション代わりになったらしい。 ぼんやりした頭を無理矢理覚まして、フリードを呼ぼうとした……その時だった。 ウォォォォォォン!! 静かな空気を引き裂くかのようなサイレンが何処からとも無く鳴り響いた。 一瞬、管理局で響くサイレンにも似ている気がしたが……どこか違う。 地の底から響くような……何かの甲高いうめき声のような不快な音。 わたしはただ……しばらく、サイレンが鳴り止むまで、その場に固まっていることしか出来なかった。 ※※※※ これが……全ての始まり。 屈せずとも、立ち向かおうとも、信じ続けようとも、 ど う あ が い て も 絶 望 。 そんな世界の――。 ―Lylycal Nanoha StrikerS × SIREN ~Welcome to Hanyuda vil~― ―to be continiued― 目次へ 次へ
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―Lylycal Nanoha StrikerS × SIREN ~Welcome to Hanyuda vil~― part7 ルーテシア 羽生蛇村小学校折部分校/校庭 初日/1時26分30秒 「…………」 何も言うことはおろか、何もすることが出来ずにいた。 あたしに勢いよく振り下ろされる血のついた鑿。 その動きは極めてゆっくりしているような気がした。 死ぬ直前には目に見える動きがスローモーションみたいになるって聞いたことがあった。 そんなことあるわけないと思っていたが……まさか自分が体感しようとは。 あたしは……思わず目をつぶった。 途端。 パーン! 背後から乾いた発破音がした。 思わず目を開けると……。 「ぐあああああああ!」 目の前であたしに鑿を振り下ろしていた人間が、顔を押さえながらもがき苦しんでいた。 ――何!? ふと、背後を振り返る。 その時! パーン! 銃弾が発射される音が周囲に響く。 「ぐえええええええ!」 直後、しわがれた絶叫が、周囲に漂っていた静寂をつんざく。 それは――鑿を持っていた人間が発したものだった。 あたしはすかさず、撃たれてもがき苦しんでいた人間の背後に潜り込んだ。 正直、人間を盾にしてしまったが……この際は止むを得ない。 多分……死なないだろうし。 そうしている間にも、ライフルを持った人間はあたしに照準を向けようとしていた。 鑿を持った人間は痛がりながら、その場に崩れ落ちる。 おそらく、また数分で立ち上がるのだろう……。 その隙に……あたしはその場から走り去り、建物の陰に身を潜めた。 パーン! 直後、銃弾が放たれる乾いた音が響いた。 「……ちょこまがど、動くなああああ!」 そいつは叫びながら……ライフルを私のいる方向に向けて、なおも銃弾を発射させる。 そして……あたしのいる方へと追いかけてきた! あたしは全力で走り……建物の中に駆け込んで、ドアを閉めた! 「……どこ行っだあああああ……」 そいつは異様に息を荒くして、ドアの前あたりをうろうろと歩いていた。 とにかく、このままやり過ごそう。 あたりを見回すと、真っ暗ではあるものの、天井がかなりの高さにあり、床の面積も広いようだ。 床は板敷きで、白い線で丸や四角の図形が描かれている……どうやら、学校か何かの体育館のらしい。 壁を背にして、そのまま座り込み……ふと目を閉じた。 ――!! 途端に、視界に砂嵐のような映像が見えた。 そして、瞬時に切り替わった。 ノイズ交じりの中、見えた……あたしがいる建物の外。 誰かの視線? どうやら、あたしじゃない他人の見ているものが、そのまま見えているらしい。 視線はふらふらとしていて、息はやけに荒い。 左手にはライフルを手にしていて、筒先が時折視界に入る。 時折、あたしが先程閉めたドアをじろじろと眺めているが……すぐに他の方向へ視線を向けたりしていた。 再び砂嵐がうつり……目を開けると、視界はあたしのものに戻った。 何なの、これ? 一瞬、何が起こったのか理解できなかった。 映りこんだノイズ交じりの視界は……どうやら、あたしを追いかけていた人間のもの? この世界では、そんな能力が身につくの? あたしはふとそんな突拍子も無い推論を打ち立てた。 そして、それを確かめようと、再び目を閉じる。 すると……再び砂嵐が映り……。 ――? 映った視界の先は真っ暗。 ただ、懐中電灯を手にしているらしく、それが照らし出した先だけがはっきりと見える。 白い線が無数に描かれた板敷きの床。 まさか……あたしが今いる建物の中? そう思いながら、さらにあたしの目に映りこむ『誰か』の視界を見ることに集中する。 息が異様に荒い。 さらに、動きもやけにふらついている。 「……はるみちゃんは……どこかなぁ~」 しわがれた男の声。 どうやら、先程あたしを狙った人間と同じ系統の奴だろう。 そいつは懐中電灯をやたらと振り回すかのようにしていたが……とある一点で止めた。 その先には……床に座り込んでいる、紫色の髪の小柄な人物……。 ――あたし!? そこで砂嵐が映りこみ、途端に目の前がまぶしくなる。 思わず、手で顔をかざしてしまう。 「……きみは……だれかなぁ~……迷子になったのかなぁ~」 光をあたしに向けている人物は、やけにゆっくりとした口調で話し掛けてきた。 まぶしさで思わず目がくらみそうになる中、その人物になんとか目を向ける。 頭はすっかり禿げた中高年の男。 シャツとズボンといういでたちで、肩にタオルを掛けていた。 左手にはあたしを照らす懐中電灯を持っていた。 そこまでは普通なのだが…… シャツは赤いシミが大きく付いていて。 右手には……赤いシミのついたバット。 さらには……肌は青白く……目は白目を剥いていて、赤い水を流していた! 全身がぞわっとして、鳥肌が立つのを感じた。 ま、まずい……逃げなきゃ……。 だが……体が思うように動かない。 まるで蛇に睨まれた蛙のように。 その男が放つ異様さと……不気味さのあまり、思わず心の底から不快に近いような……ぞわぞわとした感情がこみ上げる。 「かわいいねぇ~……せんせいのところにおいでぇ~!」 男は不気味な笑みを浮かべて、バットを振り上げながら……あたしに走り寄ってきた! ※※※※ 前田知子 蛇ノ首谷/折臥ノ森 初日/0時42分45秒 は、はやく家に帰らなきゃ……。 わたしは森の中を駆け足で進む。 家出しなきゃよかった……。 お父さんとお母さんとけんかして、家を出て行った。 そこから……何かがおかしかったような気がするの。 空は曇っていて気持ち悪かったし、おまけに、何か飛行機みたいなものがたくさん飛んでいた気がしたの。 変なことになったの、なんて思っていたら、サイレンが鳴って、地震が起こって、気絶して……。 目が覚めて、家に帰ろうと思ったら……村の人たちの様子も変だったし! だって、包丁や鎌を持って襲い掛かってくるんだから! 泣きそうになりながらも、森の中をさらに走っていると……前の方に人がいるようだった。 わたしはびっくりして、思わず近くの木の陰に隠れた。 その人は……病院の看護婦さん? 服は物凄く汚れていて、なぜかシャベルを手にしていて、じっと前にある木の茂みに近寄っている。 恐る恐る、わたしは看護婦さんの顔を見ると……目から赤い涙が流れて! ああ、この人もおかしくなっちゃってるんだ……。 わたしはそう思いながら、看護婦さんに見つからないようにして、そうっと木の茂みの中を進むが……。 バキッ! 枝が折れるような音がした。 靴で踏みつけてしまったのだった。 わたしは思わず息を飲んだ。 そして、思わず看護婦さんの方を見ると……。 ――!! そこには……赤い涙を流した、青白い看護婦さんの顔。 気持ち悪く笑った顔と、思わず視線が合ってしまい……わたしは動けなかった。 看護婦さんは……ゆっくりとわたしのところに近づいてきた! 「い、いやあああああああ!」 わたしはありったけの叫びを上げると、すぐに走り出した。 「……せんせぇ……どこにいるのぉぉぉ!」 看護婦さんはものすごい勢いでわたしを追いかけてきた! もう、嫌!はやく家に帰りたい! ごめんなさい!もう許して! わたしは、ただあてもなく、看護婦さんから逃げようと、全力で走った。 ―to be continiued― 前へ 目次へ 次へ